朝は誰よりも早く出勤し、夜は遅くまで残業。仕事を家に持ち帰ることも珍しくない。それでも仕事は終わらない――。
かつての僕が、まさにそうでした。月の残業は160時間を超え、心も体もすり減っていました。
でも今は、ほとんど残業をしていません。仕事の量が減ったわけではありません。変わったのは、僕の中にあった「思い込み」です。当時の僕は、働き方についていくつもの思い込みに縛られていて、その一つひとつが、自分で自分を苦しめていました。
この記事では、かつての僕を縛っていた「3つの思い込み」を取り上げます。もし今あなたが終わらない仕事に追われているなら、同じ思い込みが、あなたの足を引っ張っているかもしれません。
この記事でわかること
- 月160時間残業していた僕を縛っていた、働き方の3つの思い込み
- その思い込みを手放すと、なぜ仕事の質はむしろ上がるのか
- 今日から試せる、小さな一歩
かつての僕は、月160時間残業していた

7年前の僕は、朝5時前に出勤して学校の鍵を開け、夜は22時を過ぎるまで残業する日が続いていました。家に帰ってもシャワーを浴びて寝るだけ。土日もほとんどなく、残業は月160時間を軽く超えていました。帰る時間さえ惜しくて、学校の駐車場で車中泊をしたことすらあります。
担任に加えて、校務でも部活動でも役割を抱え、毎週、空き時間はほぼなし。校外の仕事も引き受けていました。とても一人分とは思えない量を抱え、ただ無難に終わらせることだけを考えて、毎日をやり過ごしていました。
そして当時の僕は、そんな毎日をどこかで「誇らしい」とさえ思っていました。忙しいことは、頑張っている証だと。
でも今は、まったく逆に考えています。忙しいというのは、仕事を捌けていない、判断が遅い、重要でないことにまで手を出しているサイン。つまり、少なくとも当時の僕は、「仕事がうまくできていない状態」だったのだと。
今振り返ると、僕を本当に縛っていたのは仕事の量そのものではなく、働き方についての思い込みだったと思います。代表的なものが、次の3つです。
思い込み①「長く頑張ることが、誠実さだ」

一つ目は、「長い時間、一生懸命やることが、誠実さの証だ」という思い込みです。
学校には、遅くまで残って仕事をするのが当たり前という空気があります。早く帰ろうとすると、どこか後ろめたい。僕も「まだ終わっていないのに帰るなんて」と、自分を追い込んでいました。
でも、ここに落とし穴があります。「いくらでも時間をかけられる」と思っていると、仕事は無限に増えていくのです。終わりの時間が決まっていないから、あれもこれもと抱え込み、ダラダラと長くなる。
そこで僕は、思い切って「定時で帰る」と決めました。すると、面白いことが起きました。時間に限りができると、「本当にやるべき仕事はどれか」が見えてくるのです。限られた時間で成果の大きい仕事を選ぶようになり、むしろ仕事の質が上がりました。
そしてもう一つ気づいたのが、「どこで働くか」の大切さです。職員室は人が出入りし、話しかけられ、お菓子の誘惑もある。集中するには向いていません。僕は思い切って職員室を離れ、誰も来ない場所で仕事をするようにしました。それだけで、同じ仕事が驚くほど早く終わるようになりました。
教材研究もそうでした。子どもたちに楽しく、深く理解してほしい。その思いから、ワークシートの細部や発問の組み立てに、机の上で何時間もかけていました。でも今思えば、疲れきった状態で同じ場所に座り続けても、良いアイデアは出てきません。場所を変えて、リフレッシュした頭でぼんやり考えるほうが、明らかに良い発想が浮かぶのです。
▶ もっと詳しく(各論記事へ)
- 定時で帰る具体的な工夫 → 仕事に追われている先生方、定時に帰ってみませんか?
- 集中できる場所のつくり方 → 仕事が捗らない先生方、職員室を出てはどうですか?
採点や成績処理の「丁寧さ」についても、同じ思い込みが潜んでいます。
▶ 採点や成績処理に追われている先生方、仕組みで時間を生み出してみませんか?
思い込み②「やめる・断るのは、無責任だ」


二つ目は、「一度始めたことをやめたり、頼まれごとを断ったりするのは、無責任だ」という思い込みです。
学校には、「これまでやってきたから」「みんながやっているから」という理由だけで続いている仕事がたくさんあります。誰のため、何のためかもわからないまま続いている業務。僕も、前任者がやっていたことを当然のように引き継ぎ、頼まれたことは何でも引き受けていました。
若手だった僕は、頼まれごとの多い立場でした。研究授業を引き受ければ、指導案を何度も練り直し、試しの授業を重ね、講師の先生との打ち合わせにも時間を割く。大量の印刷の手伝い、毎日の自主学習ノートへのコメント、授業の感想文のチェックと掲示、遅くまで残っているからと任される戸締りの確認——。
誤解しないでほしいのですが、これらは一つひとつは、良い仕事だと今でも思います。問題は、自分のキャパシティを見ずに、全部を引き受けていたことです。一つ二つならすぐ済むことも、積み重なれば時間を奪い、同時進行が増えるほど思考力は落ち、仕事の質が下がっていきました。
やめること、断ることには、勇気がいります。「やる気がない」「協調性がない」と思われるのが怖い。僕もそうでした。
でも、あるとき気づいたのです。周りの目を気にして自分の時間を差し出し続けた結果、本当に大切にしたい子どもへの指導の質が下がってしまったら、それこそ本末転倒ではないか、と。
そこで僕は、一つずつ「やめる」を試しました。すると、多くの場合、何も問題は起きませんでした。むしろ、やめて生まれた時間を大切な仕事に注げるようになり、結果として周りからの信頼も増したように感じます。気の進まない飲み会も、自分の価値観に照らして判断し、断るようになりました。
大切なのは、「忙しいから」ではなく「この時間を何に使いたいから」という前向きな理由を、自分の中に持っておくことです。
今の僕が支えにしているのは、「全体の2割の仕事が、8割の成果を生んでいる」という考え方(パレートの法則)です。先生の仕事は無限に湧いてきます。全部はできない。だからこそ、本当に効果の大きい仕事を選び、効果の薄いものを手放す勇気が要るのです。
▶ もっと詳しく(各論記事へ)
- 何を、どうやめるか → 忙しくて身動きが取れなくなっている先生方、思い切って「やめる」選択をしてみませんか?
- 飲み会の上手な断り方 → 飲み会が好きではない先生方、断ってみてはどうですか?
思い込み③「自分の仕事は、自分で抱えるべきだ」
三つ目は、「自分の仕事は、自分一人で終わらせるべきだ」という思い込みです。
かつての僕は、誰かにお願いするのがとても苦手でした。「自分の仕事は自分で」「他の先生も忙しいんだから」と考え、何でも一人で抱え込んでいました。その結果、一つひとつの仕事の質が下がり、残業が増え、健康まで損なっていきました。
考え方を変えるきっかけは、「自分が頼まれたらどう思うか」と想像してみたことでした。誰かに頼られるのは、嫌なことでしょうか。むしろ、「自分を頼ってくれた」とうれしく感じることのほうが多いはずです。
そう気づいてから、お願いのハードルが少し下がりました。今でも頼むのは得意ではありませんが、自分一人では難しい仕事や、得意な人に任せたほうがいい仕事は、周りに相談したりお願いしたりするようになりました。その代わり、自分も誰かから頼られたときは真剣に応える。そうやって、お互いに支え合う関係ができてきました。
振り返ると、僕は不思議な状態にありました。頼まれる仕事はどんどん増えるのに、自分から頼むことはほとんどできない。この非対称が、負担を一方的に積み上げていたのです。
今は、こう考えています。先生方にはそれぞれ得意と苦手がある。自分の苦手をあの先生が得意なら、素直にお願いする。逆に、誰かの苦手が自分の得意なら、引き受ける。得意を交換し合うほうが、チームとして明らかにうまく回ります。育休や突発的な休みで誰かが抜けるときも、支え合える組織はこうやってできていくのだと思います。
抱え込むことは、美徳ではありません。チームで動くほうが、結局はみんなが楽になります。
3つを手放して見えた、共通の真実

長く頑張ること。抱え込むこと。やめずに続けること。これらをすべて手放したとき、僕の毎日には「余白」が生まれました。
そして気づいたのです。この余白こそが、すべての出発点だったと。
余白があるから、立ち止まって考えられる。考えられるから、本当に大切な仕事が見える。大切な仕事に集中できるから、質が上がる。質が上がるから、また余白が生まれる。この良い循環が回り始めました。
不思議なことに、学校にいる時間は短くなったのに、仕事の質はむしろ上がったと感じています。3つの思い込みは、僕を「たくさん働く先生」にはしてくれましたが、「良い仕事をする先生」にはしてくれなかったのです。
そしてこれは、個人だけの話ではありません。学校全体に余白があれば、組織としてもっと良い判断ができる。先生たちの余白は、巡り巡って、子どもたちがより成長できる環境をつくるのだと、今では感じています。
まとめ:手放すことは、手を抜くことではない
ここで、どうしても誤解されたくないことがあります。
僕は、子どもたちや同僚の先生方のために、自分の力を最大限に発揮したいと、強く思っています。やったほうがいいこと、改善すべきことには、積極的に取り組みます。
手放すというのは、手を抜くことではありません。本当に大切なことに力を注ぐために、そうでないものを手放す。それだけのことです。
もし今、終わらない仕事に追われ、すり減っているなら。3つの思い込みのうち、どれか一つでも、心当たりはないでしょうか。全部を一度に変える必要はありません。まずは小さな一歩から。定時で帰ってみる、一つだけやめてみる、誰かに一つお願いしてみる。そのどれかから、始めてみませんか。
具体的なやり方は、それぞれの記事に書いています。気になったものから、読んでみてください。

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